私はどうやって「英語」と「ドイツ語」を学んでいるのか?-その2

私はドイツ語専門学校に入って、何も覚えず大金を遣っていました。その頃、ドイツのドレスデン国立歌劇場に行った時にガイドをしてくれた日本人女性がこう言ったのです。「失礼ですけど、私も夫とドイツに来るのに日本で会話の学校に入ったのですが、いっこうに話せるようにはなりませんでした。」と言ったのです。その頃私は分厚いドイツ語の本を教科書にしていたのと、専門学校に行っていた自負から、心の中では「ロクデモナイガッコウに行ったんじゃネ~?」と考えていました。しかし、その後の体験が、彼女の言ったことに偽りはなく、彼女の本心を吐露してくれたことの証明になりました。

そのドイツ旅行の帰りの空港で、決定的なことが起こりました。搭乗口に入ってすぐに、待合室のイスの傍にバッグを忘れたことに気が付いたのです。目と鼻の先に置いてあるのです。焦れば焦るほど言葉が出ません、と言いたいのですが、元々英語が話せないので言葉が出ないというのは図々しいのですが。バッグを指差して、色々言ってみるのですがダメです。変な日本人が血相を変えて指差している所は、彼女からは椅子の陰になっていて見えません。

周りにいる外国人は何が起こったのか興味津々です。彼らはいったん意識が集中すると、ずっとそのことを観る人々でもあるのです。

この恥ずかしさはバイロイトの比ではありません。もうどうにもならなくなった時、騒ぎに気が付いたアテンダントがやってきました。彼女はこともなげに私をゲートの外に出してくれました。たったそれだけのことですが、この恥ずかしさによって、絶対外国語を覚えようと誓うことになりました。皆様もご存知のように、英文を読むのと会話をすることはイコールではありません。英文を読める人でも英会話ができない人も沢山います。私はこのことに着目しました。

何としても会話ができるようになりたいの一念は、岩をも通すのです。そういう意識が出来ると、やりたいことが次々と現れます。映画は字幕なしで観たい。ワーグナーはドイツ語で理解したというのも大きな励みになりました。何しろ60歳を過ぎた人間が突然、英会話とドイツ語を習おうというのです。

正気の沙汰ではありません。しかしこの破天荒な考えが実のところ非常に良い着眼点あったことが徐々にわかってきました。

英語とドイツ語はとても似ている言語だったのです。

・and(英語)とund(ドイツ語)(アンドとウント)共に、そして・・・ですし、

・can(英語)とkann(キャンとカン)できる

・I(英語)とIch(ドイツ語)(アイとイッヒ)私

こんなことは沢山あります。

2つの言葉を学んでいると、あまりの共通点の多さに驚きます。ドイツ語の「ワク構造」(決まった型)に比べると、英語の方は、単語の位置を重視しますので、単語の配置が大事になってきます。主語、動詞を中心にして単語、句、節を並べていくことにより

一文が出来上がることになります。結論を言ってしまえば簡単な事なのですが、そんな生意気な事を言うまで、本屋に行ってどの位の英会話本を買ったかわかりません。今も部屋の中に重ねられています。その中には、例えば“前置詞”をどう使うか?とか、“形容詞”だとか、兎に角専門的な本がいっぱいありますし、反対に“10日間で身につく本”などもあります。

ドイツ語・英語の会話学校に払ったお金に比べれば、どの位本を買おうとたかが知れています。この経験から「外国語を習うというのは、本当はかなり安くできる趣味である。」ことも発見したのです。

こんなことを書くと、いかにも英語やドイツ語がペラペラと話せるように思われるかもしれません。ネイティブのように話せるのは、ほとんど不可能ですが、本当はゆっくりなら日常の会話はどうにかなるかも、という程度の人間なのです。しかし、“どうにかなるかも”というのは大切な事であります。

最近の2、3回の海外旅行は個人旅行ですが、特に問題はないのです。このことは、他のプラスを我々に与えました。旅行会社の人には言えませんが、個人旅行で行くなら通常の料金を遥かに下回る金額で海外に行けるのです。NHKのテレビとラジオを活用すると無料で、これだけでは心もとない人は、テキスト・ブック(毎月出ます)を利用するのです。今時600円程度で綺麗な本で、内容の濃い学習が出来ます。語学という観点から見ると、難しい、面倒臭いという発想になりますが、“趣味”と考えるとこれは楽しめます。会話の良いところは、覚えてしまうとその分だけ自分のものになり、外国人の話しているペラペラという何を言っているのかわからない音の連続が、部分的に聴いたことのあるフレーズになっていくので、とても楽しめる。こんな安い趣味はいまどきどこにもありません。

さて私は英語とドイツ語が似ていると書きました。そのことについて調べてみると、「英語とドイツ語は同じ西ゲルマン語から出た姉妹後ですから、類似している点が数多くありますが、英語に比べるとドイツ語はかなり保守的で・・・・」(『標準ドイツ語』常木実著・郁立社)という文章がみつかりました。何の脈絡もない英語とドイツ語を知ろうとした無謀な決意は、意外な結果を生んだことになったわけです。で、この2つの言葉はとても似ているので、相互にやると「へぇ~!」とか「ありゃー!」とか感嘆詞の連続で飽きません。

この調子で『虫歯は痛くない!』というとウッソー!という反論が生まれる事は請け合いですが、60歳を過ぎてから英語とドイツ語をやって、個人旅行が出来るようになったことは事実なので、始めから決めつけないで「虫歯は痛くない!」も基本に戻って考えてみてもいいかもしれません。