ハンス・クナッパーツブッシュの墓 ⑤

クナッパーツブッシュのエピソード

テューバ

ミュンヘン・オペラの楽団員は皆優れた人達であるが、テューバ奏者

クーゲルマンも素晴らしい存在であった。クナはテューバを重要に考えていたので、クーゲルマンにはいつも特に注目していたのだ。

「ジークフリート」を演奏していたある晩のこと、テューバのパートにいくつも出てくる難しい箇所を見事に吹き終えたところで、クーゲルマンは思った。

「今日はまずお誉めにあずかれるだろうさ。」幕が下りて、オーケストラの間を縫ってクナがそそくさと退場しようとする。ちょうどテューバの席にさしかかるとクナはしばし立ち止まり、楽器を見下ろした。いよいよ賞賛の言葉をもらえる、とクーゲルマンは待ち構えた。

クナはにこりともしないで言った。

「お宅の便器・・・・・・そろそろ磨き直したらいかがですかな!」

 

 

街の女

ある時、アン・デア・ウィーン劇場でクナは演奏会を指揮した。ワーグナーの<トリスタンとイゾルデ>「前奏曲と愛の死」を、マルタ・メードルが歌った。演奏会が終わると、クナが食事をいつもとっていたホテルは劇場からそう遠くはなかったので、彼はメードル他何人かと一緒にホテルまで歩いていった。

一行は途中、「街の女」がうろついている通りを横切らねばならなかった。女たちはクナッパーツブッシュのことなどもちろん何も知らない。その内の一人がクナに声をかけた。クナは無視して歩き続けたが、3メートル程行った後、くるりと向き直り、きょとんとする女にしゃがれた声で言った

「ごめんよ、ねぇちゃん。今日はムスコが一緒じゃないんでね!」

 

 

フランス語

バイロイトで<パルジファル>を練習していたときのこと、あるフランス人女性歌手の出来がひどかった。クナはオーケストラ・ピットから上の舞台に向けて例によって「このクソばばぁめが!」と怒鳴った。

しかし彼女はそれを解さず下に向かって

「フランス語デオネガイシマース!」

彼女がまたも演奏をしくじった時、クナは怒鳴った。

「フランス語のクソばばあめが!」

 

 

短い練習

クナッパーツブッシュは厳格だったが、慈愛深くもあった。

練習で彼は最小の労力で最大の成果を得たので、有能な音楽家から高く評価されていた。

ミュンヘンの演奏会でのこと。ブルックナーの第8交響曲のためにわずか1日の練習が予定されていた。クナは第1楽章を始めたが途中で止め指揮棒を置き、

その特徴的ななガラガラ声で言った。

「皆さんはこの曲をご存知だ。わしもそうだ。お互い辛いことは止めましょうや。ではまた今夜8時の本番で。」

練習はそれで終わりだった。

そしてその夜はいつものように輝かしい成功をおさめたのである。

 

(ミュンヘン・フィルハーモニーのソロ・ホルン奏者

               アルトゥール・アイトラー氏の小冊子より)