当院の理念

歯の治療とは何をすることなのでしょうか、と質問するなら「そんなこと解ってるでしょ。虫歯を治す事でしょ。今頃何を言ってるの。」と言われる事請け合いです。

確かにその通りなのですが、この“歯”というのがなかなかに手強いのです。

私たちは生まれた時から歯の治療=虫歯の治療と教えられてきました。ですから皆さんが上記のように、答えても特に問題があるわけではありません。

だけど“その歯”というのは、どこにあって、どんな環境のところにあるのか、あるいは、虫歯がどうして起こるのかとか、歯周病(昔の歯槽膿漏)が進行するとどうなるのかとか等々、基本的な事があまり知られていません。

更に患者さん同士で話していること、例えば「歯は抜かない方がいいよ。」といった会話を信じている方もいらっしゃいます。実のところかくいう私自身も同様で「歯医者なんか絶対行きたくない派」なので「歯は抜きたくない派」の気持ちも実によく解るのです。でもそれは正しい事なのでしょうか。

歯は絶対抜かない方がいい?歯周病の治療とは?

最近あちこちに歯科医院が出来ていて、「歯を抜かない派」の先生も多くいらっしゃいます。患者さんから見れば“この先生方は神様のように見えるだろう”ということも理解出来るのです。確かに私が心酔しているスウェーデンの歯周病の大家、ヤン・リンデ教授の治療を見ると、歯を抜かない治療をして、その後の経過を見ると、ブラブラになった歯を連結して、長期間保存しているの見る事が出来ます。私もリンデ教授のいらっしゃるスウェーデンのイエテボリ大学に相当通っていましたし、日本に来られた時に、教授から私どもの患者さんについて診断して頂いて、歯周病の手術を一緒にさせて頂いたこともあります。

「砂上の楼閣」は絶対にダメ

その時の経験を話しますと、教授が来日されるまで日本とスウェーデンの間で何度も何度も質問が来たり、嫌になるほどダメ出しされたりで、手術当日になって、状況が改善されてなければ中止にすることもある、という驚くことも記されていました。つまりどんな状況でも手術すれば治るとは言わないのです。厳しいプラーク・コントロール(歯の汚れを徹底的にコントロール)が出来なければ、その上に人口の歯を被せても何の意味もないという当たり前のことを徹底的に教え込まれたわけです。私はこのことから歯科治療に目覚めたと言っても過言ではなく、「砂上の楼閣」は絶対にダメという結論にたっています。ですから「歯周病の治療なくして歯科の治療なし」なのです。

患者さんの状況を正しく診査し、診断をすることこそ我々の能力

どうしても治療の結果が出ない歯は“抜く”という決断をしなければならないのか、歯周治療で“抜かなくていい”という結果がでるのかは、患者さんの意識(つまり自己のプラーク・コントロールの成否)も多く関わってきます。歯も磨かず歯周病の治療にも真面目でない患者さんは、多くの場合残念なことになりかねません。

私は歯科医師になって何度もこう言われてきました。「歯医者さんって器用なんでしょ?」と。でも先程も言いましたように、歯科医の能力はそんなことではありません。患者さんの状況を正しく診査し、診断をすることこそ我々の能力なのです。ですから患者さんに対しても正確な状況を説明して、理解して頂いて“歯を抜く”こともありますし、反対に“歯を抜いて下さい”と言われても断ることもあります。

今話したことは、基本中の基本である「歯周組織」の事ですが、それだけで「歯科」というものが成立しているわけではありません。

しかしそのことを話し出すと、時間がかかりますし、先の楽しみも少なくなりますから、この先徐々に説明することにします。

我々の敵は虫歯菌であり、歯周病菌

このことに関連していえば、「この間あんな高いお金をかけて治療したのに、もうダメになった。」と目を剥いて抗議される方も稀にいらっしゃいます。しかし考えてみれば、高いお金を払ったこと=口腔内の微生物(口腔細菌)が減ったことは全く別のことなのです。確かに自由診療で治療すると、使用金属も異なりますし、技術的にも高度な治療を受けられますので、悪くなる確率は低くなると思われますが、それに安心して、ブラッシング等を怠りますと二次カリエス(二次的な虫歯)や歯周病の進行が起こります。つまり“お金”と“口腔内の健康”とは無関係とは言わないまでも、患者さんの頭の中に口の中にはすごく多くのばい菌がいるのだ(目には見えませんけど)、我々の敵は虫歯菌であり、歯周病菌なのだという基本的な知識がはっきりとしないのではないかと思うのです。しかしながら、私も含めてですが、皆様がその様な教育がされてこなかった、あるいは頭に入らなかったのは事実であります。かくいう私も、歯科の仕事を始めてから、歯周病の学位をとりに大学に戻り歯周病科に10年間通ったことが私の意識を変えさせたのです。

今回の話はここまでにしますが、是非皆様に理解してもらいたいのは、歯の保存は「歯を入れる」=“冠”や“金属をはめた治療”“取り外しの入れ歯”“インプラント”“矯正”など口の中に異物が入った時から始まる、とも言えるのです。何故なら現在の歯科医療技術は随分と進歩していますが、その周りにべったりとくっつく細菌は、その誤差以上に小さく立場を変えてみれば、彼らから見れば随分と大きな穴が見えるでしょうし、細菌が取りつく場所も沢山あることになります。

歯を削って冠を被せるというのは、ある意味で怖い事でもあるのです。しかしそうしなければ、歯を治すことが出来ず、その両方に問題があることも事実なのです。何でもない自分の歯が虫歯になったり歯周病になったりするのですから、その理由をしっかりと自覚することが大切になります。