“歯科技工士”って何だろう?

私が子供の頃歯科医院に行くと、診療室のちょっと後ろの狭い空間に、小さな部屋があって、先生がそこに入り込んで“歯”を作ったり、あるいは少しの気の利いた歯科医院では、「技工士」と呼ばれる人がいて、“歯”を作ることに専念していた記憶があります。

当時は、先生が“歯”を作っているのが普通で、治療をしたり、技工をしたりと、休む間もなく働いていたように思われます。

昔は、優秀な歯科医は、優秀な技工士と同義語であり、現に私の友人の父親は、自分の患者さんの“歯”は自分で作ることにこだわっていました。

歯科医院の中に小さな技工室を造って、歯科技工士が働くようになると、(どこの歯科医院でも同様の形になったのですが)、時を同じくして、歯科技工士は独立するようにもなって、自分の城を造る人々も出始めたのです。「外注技工所」を造った彼らは、自分が経営者になって、働くようになったのです。一方歯科医院側でも、高価な技工の機械を導入し、狭いとはいってもそこそこの場所を占有され、高い家賃を払うのに難色をしめし始めました。

それにどんどん増える歯科医院に比べ、歯科技工士の数はそう増えるわけではありませんから、人の確保が難しくなり、例え技工士を採れたとしても、その人が優秀かどうか分かりません。歯科衛生士と同様で、人材の確保は困難を極めます。

つまるところ、技工は外注技工となり、現在では歯科医院全体の1割ぐらいしか、院内技工がないそうです。(歯科医院内に小さな技工室があるにもかかわらずです。)

小高歯科クリニックでは、開院41年目になりましたが、当初から院内技工(技工士が常勤)を徹底してきました。(現在在籍の歯科技工士は25年目になります。)

私どもの考える歯科医療というのは、前述しました通り、歯周病治療と、予防医療を中心としたものなのですが、場合によっては“歯を入れる”ことも必要になります。歯に合っていない冠や、ブリッジ、あるいは入れ歯があれば、その周りにプラーク(細菌の塊)がくっつき、更に清掃が難しくなるのですから、優れた技工物がどうしても必要になるのです。

私の考える歯科医療というのは、“歯周の清潔さ”プラス、“優秀な人口の歯”によって成立します。勿論、歯科医の良さも欠かすことは出来ませんが、これは自分の努力によって解決できます。が、衛生士と技工士の世界は、各々の世界の専門家に委ねるしかないのです。どうやったって、私が歯を作るのより、小高歯科クリニックの技工士の方が、上手いに決まっています。

私は、子供の頃の思い出からこの文章を始めたわけですが、その当時歯科医院に「技工士」がいた、と書きました。しかしその人々は、現在の「歯科技工士」とは異なる人々であったのです。つまりこういうことなのです。

我が国には、1955年頃になるまで、歯科技工士法というものがありませんでした。言葉を変えて言うなら、それまでの技工物は、素人が技工物を作っていたということなのです。1955年に歯科技工士の資格が認定され、1994年に大学・短大にも歯科技工士養成機関が生まれると、その卒業が条件となり、国家試験を通ると、国家資格保持者ということになります。1学年50人程度の学生がいて、50程の学校があるわけですから、年間の卒業生は大した人数ではありません。

あらためて言うと、「歯科技工士」も「歯科衛生士」も国家資格保持者でありますが、その中で優秀な人材となると、限りなく少数になります。